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ハワイの観光戦略で重視される「レスポンシブル・ツーリズム」(責任ある観光)とは? 地元と旅行者のあるべき関係性を聞いてきた

投稿日 : 2019年7月31日 | 最終更新日時 : 2019年7月31日

[トラベルボイス]

2019年7月30日

ハワイ州の観光施策を統括するDMOハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)は、取り組みの大きな柱として「レスポンシブル・ツーリズム」を推進している。ハワイ州固有の文化や自然の保護と観光産業の成長とのバランスに焦点を当てるが、それは「サステナブル・ツーリズムとは意味合いが違う」という。昨年5月のキラウエア火山の大噴火以降、日本人旅行者が落ち込んでいるハワイ島のリカバリーを目的として開催された旅行業界トレードショー「ハワイ島サミット」で、HTAが目指す「責任ある観光」とは何か、そのポイントを聞いてみた。

HTAが掲げる施策の柱は、「ブランディング」「カルチャー」「自然環境」「コミュニティー」「セーフ&セキュリティー」の5つ。このうち、レスポンシブル・ツーリズムの具体的な活動して関わるのが「カルチャー」「自然環境」「コミュニティー」だ。HTAマーケティング・商品開発担当副社長のカレン・ヒューズ氏は「ハワイ州が気をつけているのは、観光客数の増加と文化や自然の保護、そしてコミュニティーとのバランス」と話す。

ハワイ州への観光客数は9年連続で増加しているが、地元住民への意識調査では、それにともなって満足度が低下しており、ベニス、バルセロナ、アムステルダム、京都などで顕在化しているオーバーツーリズムの観点から「黄色信号が出ている」という。

ハワイ州では、日本の用途規制のように、農業、商業、リゾート、住居など目的によって地域を区切るゾーニングを明確にしている。一方で、タビナカのトレンドとして、旅行者には観光地ではなく地元の日常生活に入り込み、「本物」を体験したいというニーズが世界的にある。そのいい例がバケーションレンタル(民泊)だ。民泊は、旅行者にとっては暮らすような旅が体験できるコンテンツだが、地元住民にとっては日常が変化してしまう要因にもなりうる。

ホノルル市は今年6月、民泊について2020年10月から約1700軒に運営許可を与える法案を可決。許可された民泊以外には新たに一般住宅を民泊に転用できなくすることで、観光産業とコミュニティーとのバランスをとった。

また、ヒューズ氏は観光客の集中という点でクルーズにも言及。「ハワイにもクルーズが頻繁に来島するが、来るものは拒まずというのではだめ。クルーズによるインパクトをしっかりとリサーチして、受け入れ数を管理しなければいけない」と話す。旅行者の数と質の関係性は成熟市場では共通の課題だが、「人数と現地消費額はバランスの問題」としながらも、「質の高い旅行者に来てもらうためには、マスマーケティングではなく、ターゲットマーケティングに注力していく必要がある」と付け加えた。

地元と旅行者がハワイの価値を共有すること

「ハワイにとってレスポンシブル・ツーリズムは新しいコンセプトではない」とヒューズ氏。ハワイでは、島という地理的環境から、各島の文化や自然を守るという姿勢を昔から引き継いできた。それをHTAの戦略として明文化したのは2004年頃からだという。

「ハワイのレスポンシブル・ツーリズムは、サステナブル・ツーリズムとは意味合いが違う」と話すのはHTAの日本支局(HTJ)の支局長ミツエ・ヴァーレイ氏だ。「サステナブル・ツーリズムは地元のコミュニティーや観光産業が中心となる考え方だが、レスポンシブル・ツーリズムは、旅行者にも責任があるという考え方」だという。旅行者が地元の考え方や行動を共有し、それを尊重することで、地元に根づいた観光が可能になり、本物のハワイアンカルチャーに触れることができるようになる。ヴァーレイ氏はそれを「Relationship tourism (関係性の観光)」と言い換え、ヒューズ氏は「HTAとしては、両者の行動や考え方を連動させ、持続可能な観光にすることが大切」と強調した。

ハワイでは、カルチャールネッサンスが起きており、ハワイ語も含めて固有の文化を次世代に引き継いでいこうという動きが強まっているという。数年前までは、ハワイ島をニックネームである「ビッグ・アイランド」として対外的にブランディングしていたが、最近では地元の意向を反映して本来の名称である「Island of Hawaii (ハワイ島)」に変えた。というより、戻した。

一方で、双方向のレスポンシブル・ツーリズムを進めていくうえで、重要になってくるのが旅行者への啓蒙活動だ。たとえば、2021年から導入されるサンスクリーン(日焼け止め)の持ち込み規制や海洋動物への接近距離など、各種情報を事前に旅行者に伝えていく必要がある。HTJではハワイ線の機内で啓発ビデオを放映しているほか、旅行会社に対しても協力を呼びかけている。旅行者に向けては、注意が必要な場所に入ったタイミングで、注意喚起を促すプッシュ配信が行えるプラットフォームを来年に向けて構築していく計画だ。

インタビューに応える日本支局長ミツエ・ヴァーレイ氏(右)とHTA副社長のカレン・ヒューズ氏

日本市場ではハワイ島の復活も最優先課題

ハワイ島への日本人旅行者数は、ハワイアン航空と日本航空のコナ直行便就航によって、2017年は前年の約14万3人から約19万人に増加したものの、2018年はキラウエア火山の噴火の影響で約17万7000人に減少。2019年も5月の時点で同25.8%減と苦しんでいる。HTJとしてもハワイ島の復活は最優先課題だ。

HTJは、復活に向けた施策として、メディアでの露出強化、旅行会社へのサポート、オールジャパンでの協業、レンタカーキャンペーンの4つを掲げる。このうち、複数の旅行会社を巻き込んだオールジャパンの取り組みとして、西海岸のコナと東海岸のヒロを結ぶシャトルバスの運行を検討していく。HTJ営業部長の酒井剛士氏は、「ダイナミックパッケージなど個人旅行(FIT)が増えているなか、送迎など二次交通が日本市場のネックになっている」と話す。日本人のレンタカー利用もなかなか進んでいないようだ。

日本市場について説明するHTJ酒井剛士氏

課題はまだある。日本語の現地ツアーを催行するオペレーターが限られていることだ。そのため、日本で紹介されるプロダクトは星空ツアー、コナコービー農園、火山国立公園など定番に限られ、新しいプロダクトが日本市場では出てこない。ヴァーレイ氏は「実は、アメリカ市場向けにプロダクトを提供しているオペレーターは100社以上ある。課題はやはり言語」と現状を明かす。今回の「ハワイ島サミット」の大きな目的が、英語で催行するオペレーターと日本市場とを結びつけること。ハワイ島から26社、ハワイ島以外から41社が参加した。

キラウエア火山の噴火の影響については、多分に風評被害の側面が強い。実際のところ、一連の噴火の被害は島の南東側で発生し、リゾートが広がるコナ側、東側のヒロにも全く影響はなかった。ハレマウマウ火口は大きく陥没したものの、火山国立公園のビジターセンターや火口ビューの部屋が人気のボルケーノハウスは変わらず営業している。HTJでは、噴火の被害を逆手に取って、被害地域のひとつである「レイラニ・エステート」を新しいプロダクトして開発する動きさえ見せている。

日本市場にとって大きな強みは、ハワイアン航空と日本航空がコナ直行便を継続していること。この路線を維持していくためにもハワイ島の復活は必須だ。HTJは2019年の日本人旅行者数を17万人と予想。2020年は23万人まで増やしていきたいと意欲を見せている。

レイラニ・エステートには噴火の生々しい爪痕

取材・文 トラベルジャーナリスト 山田友樹