民泊規制の次はオフィス・住宅向けに規制緩和〜京都市

2018年11月に関西を代表する政令指定都市である京都市と神戸市での建築物の規制に関する動きが報道された。

タイミングこそ同じであったが内容の方向性については正反対。インバウンド需要で空前の勢いで宿泊施設が増加している京都は規制緩和、インバウンド需要においては京都、大阪に遅れを取っている神戸市は規制強化。それぞれどのような動きがあったのであろうか。

京都市では高さ規制を緩和する考えがあることが明らかにされた。高度地区が緩和される「緩和エリア」として報道されているのはJR「丹波口」駅西側エリア。また京都市営地下鉄「竹田」駅、「太秦天神川」駅、JR「山科」駅周辺では、上限を超える高さを認める既存の制度「特例許可制度」の上限を明示し、同制度を使いやすいものにする。

町家の活用に関する条例などを除けば、多くは規制する方向であることが多いのが京都市だ。最近では住宅宿泊事業法いわゆる民泊新法での「上乗せ規制」が話題となった。この規制、少し説明しておこう。

これは、2015年度までには総数で696施設しかなかった簡易宿所が、2016年度813施設、2017年度871施設が新規で認可されるという事態を受け質の低い宿泊施設を増やさないための施策として実施された。

しかし、結果は裏目。上乗せ条例により民泊新法の使い勝手が悪くなったことに加え、旅館業法の改正による緩和(最低客室数の廃止、1客室の最低床面積の緩和等)から、「民泊需要」が「旅館業法」に移行。2018年度の許可件数は4~10月までで579件、12ヶ月に引き直すと992件と2017年度909件と比べ昨年度のペースを上回る事態となっている。

緩和される高さ制限

京都、御池通りの様子京都、御池通りの様子

規制をかけても激増のペースが止まらない宿泊施設。相対的にオフィスや住宅の供給が減り、高さ規制が緩和されることになったのだが、この高さ規制はそもそも他都市と比べ厳しい規制がある。

現在、京都市内の殆どのエリア(市街地の97%)には高度地区という名称の高さ制限がなされている。この高度地区、住居系・商業系等の用途地域やエリアによって10m、12m、15m、20m、25m、31mの6段階のいずれかに指定されている。

この規制がなされたのは、2007年9月。「50年後,100年後も京都が京都であり続けるため」「建物の高さ規制やデザイン規制,屋外広告物の規制等を全市的に見直した「新景観政策」」(以上、京都市WEBサイトより抜粋 http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000236593.html)によるもの。この時に市街地全体の約3割のエリアにおいて高さの最高限度が引き下げられた。

当時話題になったのは阪急京都線「烏丸」駅を中心としたいわゆる「田の字エリア」の御池通、四条通、烏丸通、河原町通といった幹線沿いの規制強化。それまでは最高45m(14~15階建)まで建築できたのが最高31m(10階建程度)まで引き下げられた。しかし、建築に詳しい人なら数値を見ればピンとくると思うが、それ以外の規制も大変厳しい。31mが建築可能なエリアは「田の字エリア」の幹線沿い以外ではJR「京都」駅界隈等の一部エリア。それ以外の殆どのエリアでは400%、600%の高い容積率を持つ商業地域であっても20m、25m、すなわち6~8階程度の建物しか建てることができない。

それが約10年経過し、緩和の方針が出された。JR「丹波口」駅西側エリアや京都市営地下鉄「竹田」駅、「太秦天神川」駅、JR「山科」駅周辺といった中心部を離れた周辺エリアで規制緩和の方向に舵を切った。

緩和でマンションとオフィスビルの増加はあるか

この緩和の目的は規制緩和によりマンションやオフィスビルを増やして子育て世帯の市外流出を防ぐこと。しかし、この高さ規制の緩和でマンションやオフィスビルの供給が増えるかといえば、そうとは言い切れないのではないだろうか。理由は2つある。

1つ目の理由は緩和されるエリアがマンションやオフィスとして人気の高いエリアではないこと。JR「丹波口」駅界隈は大阪ガス系列の会社が運営する産官公連携拠点である京都リサーチパークがある。オフィスとしての人気は高い。が、これはあくまで「施設の人気」であり決して丹波口周辺がオフィスとして人気が高いわけではない。不人気エリアとまではいかないが、あらためて「丹波口界隈で事務所を持ちたい」という企業よりもJR「京都」駅、阪急「烏丸」駅、京都市営地下鉄「御池」駅あたりの方が人気が高い。

京都市営地下鉄「竹田」駅、「太秦天神川」駅も同様。始発駅である同駅、どちらかといえば住宅エリアのイメージの方が強いが、マンション需要は強くない。異常な高騰を続ける中心市街地と比べれば中古マンション市場の落ち着いている。

2つ目の理由は、宿泊施設の供給圧力が想像以上に大きいということ。現在京都市内中心部において新築マンション供給が減少しているのは用地の仕入れができないから。新築マンション事業が支払える土地価格と、宿泊施設事業者が支払える土地価格は相当な開きがある。新築マンション事業者が提示する金額と比べ宿泊施設事業者は倍以上金額を提示することも珍しくない。もちろん立地によって価格は前後するが、宿泊施設事業者の価格競争力は相当に高い。オフィスやマンションの事業者に対して「建物高さの緩和」をするにしても、通常の2倍以上の容積率を消化できるような緩和を行わなければ効果を出すことに疑問が残る。

神戸では住宅を抑制

山の手から見える神戸の町並み山の手から見える神戸の町並み

京都市が住宅を増やすことを目的とし規制を緩和したのに対し、神戸市では住宅を規制する方針が出された。

JR「三ノ宮」駅・阪急「神戸三宮」駅の南側エリア、大きさにして東西約700メートル×南北400メートル≒0.28平方キロメートルでは住宅建設が原則禁止となる。また、JR「三ノ宮」駅から西側「元町」駅「神戸」駅にかけての商業集積エリア一帯と新幹線「新神戸」駅と、JR「三ノ宮」駅間の通称「フラワーロード」と呼ばれる幹線沿いでは敷地面積1,000平方メートル以上の土地に住宅を建設する場合、現行平均600%の容積率が400%に制限される。オフィスや店舗の方が土地の利用効率が良くなるというわけだ。

「神戸を大阪のベッドタウンにはしない」という久元神戸市長の言葉でわかるようにこの規制は、神戸市中心部には商業施設やオフィスが集積されるべきであり、そこに住宅が増えることで都市機能の空洞化が進むことを懸念しての動きだ。

しかし、この「マンション規制」も課題がありそうだ。
商業施設やオフィスがある街は外部からの来街者が見込めるが、そこが住宅になってしまうと居住者以外が街に来なくなり活気が失われる。そのロジックに間違いはないが、「マンションが建たない」から商業施設が建てられるかというとそういうわけではない。アーケード商店街に突然マンションのエントランスが現れる。そんな光景を目にすることもあるが、多くの場合このような物件は商業施設としての魅力が失われたから住宅になっているわけで、そのような場所ではマンションを規制したとしても商業施設が建てられることは考えづらい。

京都は宿泊施設規制、神戸は店舗併設マンションが効果的か

京都市は「高度地区における高さ規制の緩和」によってマンション建設を促進し、神戸市では「特別用途地区による規制の強化」によってマンション建設を抑制。この手法によって本当に住宅施策の目的は果たせるのだろうか。

京都市は「マンション規制の緩和」よりも「旅館業の規制」を徹底する方が効果的かもしれない。先にも書いたが、京都市内で土地価格が高騰しマンション供給が細っているのは旅館業の増加によるところが大きい。京都市内の旅館業許可施設は2013年度末時点で931。それがここ数年の新規許可数だけで2016年度838、2017年度909と、つい5年前の京都市内全域の旅館数と同数の施設が毎年許可されるという異常な事態だ。仮にマンションを増やすとすれば、価格競争力でマンションに勝る旅館業規制の方が効果が見込める可能性がある。

神戸市は「マンションの規制」ではなく「商業施設に対する緩和」の方が良いのではないか。マンションが街の賑わいを奪うと考えられているのは、敷地の利用がマンション住民以外に対して排他的になっているから。中心部にタワーマンションが建ったとしても低層部がショッピングモール等になっていれば「賑わいの創設」は可能だ。「原則マンション禁止」ではなく「商業施設併設マンション積極誘致」の方が前向きな施策かもしれない。

人口減少の日本において、定住人口を確保することは行政の大きな課題。これは地方だけの話ではない。実際に、京都市は2016年から3年連続、神戸市は2012年から7年連続で人口が減少している。各行政が人口増加に対してどのような施策を取るか。不動産の資産価値を考える上で考慮したいポイントのひとつといえる。

・京(みやこ)の景観ガイドライン
http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000146/146248/guide_takasa.pdf

京都市は「高度地区における高さ規制の緩和」によってマンション建設を促進し、神戸市では「特別用途地区による規制の強化」によってマンション建設を抑制。この手法によって本当に住宅施策の目的は果たせるのだろうか京都市は「高度地区における高さ規制の緩和」によってマンション建設を促進し、神戸市では「特別用途地区による規制の強化」によってマンション建設を抑制。この手法によって本当に住宅施策の目的は果たせるのだろうか