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「移動式水上ホテル」構想も、迫る宿泊ビッグバン

投稿日 : 2018年3月19日 | 最終更新日時 : 2018年3月19日

日経 xTECH(クロステック) – 2018.03.19

http://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00199/030700003/

2020年に訪日外国人観光客数4000万人を達成するという政府目標を追い風に、拡大する宿泊市場。18年6月には住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法が施行し、全国的に民泊が解禁される日が迫る。多様化する宿泊ニーズを取り込もうと、宿泊施設の開発競争が白熱している。連載第3回は、7つのキーワードから宿泊施設の変化を読み解く。(日経 xTECH/日経アーキテクチュア)

国は2020年度の訪日外国人(インバウンド)旅行者数を4000万人に増やす目標を掲げる。1974万人だった15年度から倍増させる計画だ。急増するインバウンド需要を見込んで、都市圏を中心に宿泊施設の新設ラッシュが続く。需要を確実に増やし集客に結び付けるには、日本を訪れてその施設に宿泊したいと思わせる独自の魅力が必要だ。

ハウステンボスが計画する移動式水上ホテルは、寝ている間にアトラクション施設に到着するという非日常的な体験を提供することが集客力となる。ロボットが接客する「変なホテル」も好調で、18年度中に計13施設にまで増やす計画だ。

古民家再生で整備した宿泊施設は、建物そのものが強力なコンテンツになり得る。近年増えているゲストハウス(簡易宿所)や、18年6月に解禁される民泊施設は、宿泊の機能や設備が最小限になるので、共用部の設えやコミュニケーションを促す仕掛けが集客のうえで重要になる。

さらに、IR(統合型リゾート)が日本で実現すれば、観光集客のための巨大複合施設を整備する必要が出てくる。施設計画に新たな知見が求められるようになるはずだ。

移動式水上ホテル─非日常性で集客

〔図1〕プロジェクト構想段階の移動式水上ホテルのイメージ。球体型の2階建てで客室に浴室、トイレなどを備える。船などで引っ張って移動させる。2018年中の開業を目指している(出所:ハウステンボス)
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エイチ・アイ・エス(HIS)傘下のハウステンボス(長崎県佐世保市)は、非日常性を演出する新たなホテルの計画を進めている。海の上に浮かぶ球体型の移動式水上ホテルだ〔図1〕。

同社は、大村湾内の無人島にAR(拡張現実)などの技術を使ったアトラクション施設を計画中。水上ホテルに宿泊している間に、ゆっくりとその施設にたどり着くという演出だ。無人島の施設は2018年ゴールデンウイークに開業。水上ホテルは18年中の開業を目指している。

同社が運営する「変なホテル」も好調だ。17年12月に発表した17年9月期の決算(単体)では、同ホテルを含む宿泊者数が前期比1.5%増の31万2000人だったこともあって、増収増益となった。

変なホテルは、人間の代わりにロボットが接客するホテルで、大型リゾート施設「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)に隣接して15年7月に開業した。順調に宿泊者数を増やし、16年3月に2期棟を建設。18年末には3期棟を建設する予定だ。

ロボットの導入は、省人化とエンターテインメント性の2つ側面での効果を狙ったものだ。

省人化の効果は開業後も高まっている。当初は客室72室に対して30人以上のスタッフを配置していたが、144室に拡張したにもかかわらず7人に減らした。人件費を約5分の1にまで削減できた。

エンターテインメント性も、外国人を含む旅行者に受け入れられた。「世界初のロボットホテル」としてギネス世界記録認定を受けたように、ロボットが接客するという非日常的な体験ができることは、このホテルにしかない強みだ。

変なホテルは現在、HISグループとして佐世保市と千葉県浦安市、愛知県蒲郡市、東京都江戸川区、中央区に計5ホテルを運営。19年3月までに、東京と福岡、大阪、京都で計8ホテルを新たに開業する予定だ。

古民家再生─建基法の適用除外で活用しやすく

全国各地に残る古民家の活用は、地方創生や観光振興の切り札として期待される。日本らしさを体験できる古民家を宿泊施設として再生することは、訪日外国人観光客を引き付けるうえでも有効だ〔写真1〕。

〔写真1〕古民家再生ビジネスを手掛けるKiraku Japan(東京都港区)が宮崎県日南市の飫肥(おび)地区で開業した「季楽 飫肥 合屋(おうや)邸」。築100年超の空き家を改修して宿泊施設に再生した(撮影:小森園 豪)
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政府も古民家再生を後押しする。2016年9月に菅義偉官房長官を議長とする「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」を設置、古民家の観光利用について検討。ここでの取りまとめを踏まえ、国土交通省は18年3月16日、自治体が建築基準法の適用除外の枠組みを利用するための、「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」を公表した。

自治体による条例制定が進めば、さらに古民家を活用しやすくなりそうだ。

ゲストハウス(簡易宿所)─コンセプトやデザインがカギ

一般的なイメージと異なり、宿泊施設数は東京などの都市圏を除くと近年、減少傾向にある。和式の設備を持つ旅館が激減しているのが要因だ。一方で簡易宿所に分類される施設が増えている〔図2〕。

〔図2〕簡易宿所の数が急増
宿泊施設タイプ別の施設数の推移。ホテルは、洋式の構造および設備を主とする施設。旅館は、和式の構造および設備を主とする施設。簡易宿所は、宿泊する場所を多人数で共用する構造および設備を主とする施設(出所:厚生労働省)
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簡易宿所とは、宿泊する場所を多人数で共用する施設で、カプセルホテルや1室に複数のベッドがあるゲストハウスなどを含む。訪日外国人旅行者の宿泊需要が増えたことを受け、急増してきたと推測される。

「民泊」としての需要もある。民泊はこれまで、現時点では地域を限って認められる「特区民泊」を活用するタイプか、旅館業法に基づく簡易宿所として営業するタイプが認められていた。

宿泊以外の「体験」を付加価値とした簡易宿所も増えてきた。

例えば、アールストア(東京都品川区)が展開する「BOOK AND BED TOKYO」は、「泊まれる本屋」がコンセプト。ファーストキャビン(東京都千代田区)の「ファーストキャビン」は、飛行機のファーストクラスをイメージしたカプセルホテルだ。

宿泊のための設備を最低限に抑えた簡易宿所は、コンセプトやデザインが成功のカギとなる。設計者の手腕が問われそうだ。

民泊─新たな宿泊サービスに期待

2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、実質的に民泊解禁となる。ホテルと異なり住宅やその部屋を貸し出す宿泊サービスに、新しいビジネスへの期待が高まる。

民泊新法で、宿泊サービスを提供する場所は「住宅」であると位置付けられた。宿泊日数は年間180日以下。施設には「台所」「浴室」「便所」「洗面設備」の4つの設備が必要で、非常用照明器具の設置や避難経路の表示も義務付けられる〔図3〕。

〔図3〕「民泊」事業者は届け出が必要
住宅宿泊事業法(民泊新法)の概要。住宅宿泊事業者には届け出を求め、180日以下の提供日数制限を設けた。宿泊サービスを提供する場所は「住宅」と位置付けた(出所:観光庁の資料に日経アーキテクチュアが加筆)
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ただ、ルールの詳細は各自治体に裁量が任された。例えば、京都市は条例で住居専用地域での営業日数を年間60日に制限する厳しいルールを設けた。

使いやすい制度になるかどうかは、自治体ごとに異なりそうだ。

バリアフリー化─事業性との両立も必要

国土交通省は2017年3月にバリアフリー設計のガイドラインである「高齢者、障害者などの円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を改正した。インバウンド需要を踏まえ、ホテル客室やトイレのバリアフリー化を促すよう改修のポイントを示した。

インバウンド増加に対応するには客室数の確保も必要。そのためバリアフリーに配慮した「一般客室」の設計標準も追加した。バリアフリーだけでなく、事業性も両立するような設計が求められる。

多言語対応─ピクトグラム併記で伝える

外国人にとって日本語によるコミュニケーションの壁は大きい。2020年の東京五輪に向け、国や東京都などは14年に「2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会」を設置。表示や標識などには日本語と英語、案内用図記号(ピクトグラム)を併記するといった多言語対応の基本的な原則を示した。

17年7月には、経済産業省がJIS(日本工業規格)を改正し、ピクトグラムを修正、追加。無線LANや海外発行カード対応ATMなど、訪日外国人のニーズが高いピクトグラムを新たに加えた。

IR(統合型リゾート)─観光集客の巨大複合施設

IR(統合型リゾート)は、カジノを中心にMICE施設(国際会議場や国際展示場など)、宿泊施設、商業施設などが一体となった観光集客の巨大な複合施設だ〔図4〕。近年、IRを設置したシンガポールやマカオが国際的な観光拠点として成功している〔図5〕。

〔図4〕カジノの収益を他施設に還元
IR(統合型リゾート)のイメージ(出所:特定複合観光施設区域整備推進本部事務局)
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〔図5〕シンガポールはIR設置でインバウンド需要が増大
シンガポールのIR開業による経済効果。「Annual Report Tourism Statistics」を基に特定複合観光施設区域整備推進本部事務局が作成
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インバウンド需要の拡大を狙う日本では、現時点で中核施設となるカジノが合法化されておらず設置できない。ただ、2016年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)が成立し、実現の道が開けた。

実現に向けては、IRを整備するための具体的な制度を定めたIR実施法の成立が必要となる。慎重論も根強く、ギャンブル依存症への対応などが課題になる。