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住宅宿泊事業法(民泊新法)でどう変わる? 観光推進と生活維持は両立できるか

投稿日 : 2018年1月19日 | 最終更新日時 : 2018年1月19日

ビジネス+IT – 2018.01.19

https://www.sbbit.jp/article/cont1/34469

2018年6月の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行を5カ月後に控え、全国の地方自治体で民泊の営業日数を条例で上乗せ規制する動きが加速している。東京都大田区は住居専用地域での営業を全面禁止としたほか、京都市は住居専用地域で営業を認める期間を1、2月のみに限定する方向。民泊を健全に普及させ、観光立国を目指す政府と、規制を強化したい自治体の思惑に大きな開きが見える。和歌山大観光学部の廣岡裕一教授(観光学)は「自治体が地域の事情に応じて規制するのは良いが、厳しすぎると新法がスムーズに施行できない」とみている。

執筆:政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

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住居専用地域での民泊を1~2月に限定する方針を打ち出した京都市役所。厳しすぎる上乗せ規制だとして批判の声も出ている

(写真:筆者撮影)


民泊新法で規制緩和、同時に上乗せ規制も可能に

新法は一般の住宅に宿泊客を有料で泊める際の営業基準を定めた法律で、家主は都道府県など自治体に届け出れば、年間180日を上限に営業できる。ホテルや旅館が原則として営業できない住居専用地域でも、開業が認められた。

家主には民泊住宅と分かる標識の掲示や宿泊者名簿の作成を求める。民泊施設を掲載するAirbnb(エアビーアンドビー)など仲介業者には、観光庁への登録を義務づけた。

日本を訪れる外国人観光客は年間2000万人を超すが、政府は東京五輪が開かれる2020年に4000万人まで増やす目標を掲げている。慢性化している宿泊施設不足を補い、外国人観光客の訪日増加に弾みをつけるのが目的だ。

国家戦略特区では、自治体の認定を受ければ宿泊業法の特例として民泊サービスが可能だが、認定を受けずに営業する違法民泊が後を絶たない。政府は宿泊業法より緩い規定で民泊を可能にし、違法民泊業者の届け出を促す狙いも新法に込めている。

だが、違法民泊による近隣住民とのトラブルは全国で増える一方。このため、新法では最大180日の営業日数について、自治体が地域の事情に応じて条例で上乗せ規制できるようにした。

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旅館業法、特区民泊、民泊新法の違い

大田区や兵庫県が住居専用地域での営業を全面禁止

営業日数の上乗せ規制を決めた自治体もある。東京都大田区と新宿区は2017年12月、区議会で条例案を可決した。住居専用地域での営業について大田区は全面的に禁止、新宿区は月曜日の正午から金曜日の正午まで禁じる内容だ。

大田区保健所は「特区民泊でも住居専用地域での営業を認めていない。これと歩調を合わせて規制した」、新宿区保健所は「区内は違法民泊が目立つ。住民生活への影響を考慮し、平日の営業を制限した、法の趣旨を逸脱しているとは思わない」と説明している。

違法民泊摘発の特別チームを編成するなど取り締まりに力を入れてきた京都市は、住居専用地域での営業を閑散期の1、2月に限定する方向で条例案を詰めている。

苦情対応などで管理者が10分以内で現場へ駆けつけられるよう半径800メートル以内での駐在を求めるほか、分譲マンションでは管理組合が民泊を禁止していないことを示す書類の提出を義務づける。京都市医務衛生課は「住民の間で違法民泊に対する強い不満がある。住民の声に十分、耳を傾けた結果だ」と述べた。

兵庫県と神戸市はともに住居専用地域での営業を全面的に認めない方針。兵庫県内にある宿泊施設の客室稼働率が2016年で57.5%と余裕があることもあり、民泊推進より住民への影響を重視している。

兵庫県生活衛生課は「住民に平日も休日も関係ない。行き過ぎた規制だとは思わない」。神戸市生活衛生課も「住居専用地域での営業を認めると、良好な生活環境が損なわれかねない」と主張した。

このほか、北海道は住居専用地域で土曜日、日曜日、祝祭日以外の営業を認めない方向で条例案を詰めている。長野県は市町村と協議のうえ、県の規則で営業を制限する区域を決める方針だ。これまで民泊営業を一切認めないとしてきた長野県軽井沢町環境課は「町の方針は変わらない。県との協議でも従来通りの主張をする」と力を込めた。

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主な自治体の住宅新法上乗せ規制

規制改革推進会議が自治体の規制に強く反発

 これに対し、12月に開かれた政府の規制改革推進会議では、委員から不満の声が相次いだ。政策コンサルタントの原英史委員は「大田区の条例は明らかに法律違反」、中央大法科大学院教授の安念潤司委員は「よほどのことがないと営業場所を制限できないとみるのが普通の法律家の感覚だ」などと批判した。

国土交通省と厚生労働省も12月、新法のガイドラインを示し、「(特定地域で営業を全面的に禁止する)いわゆる『0日規制』は法の目的を逸脱するもので、適切でない」との見解を示した。この点について、観光庁観光産業課は「条例は自治体が決めるものだが、過度の規制が適切でないことを十分に理解してほしい」と呼び掛けている。

そんな中、大阪市の吉村洋文市長は12月末の記者会見で営業日数の制限をかけない条例案を2月の市議会に提出する考えを示した。市内には1万件を超す民泊物件があり、大半が違法だが、吉村市長は「厳しい規制は違法民泊を逆に増やす。合法な民泊に導くことが大事」と語った。

しかし、大阪市の事例は各地の条例案の中では少数派。これまでに条例案や骨子をまとめた自治体のほとんどが、営業日数を上乗せ規制する方向で動いている。民泊を迷惑施設と考える自治体と、官邸主導で規制緩和を推進したい政府の思惑がかい離しているわけだ。

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大阪市内には1万件を超す民泊物件がある。大阪市の吉村洋文市長は、営業日数の制限をかけない条例案を2月の市議会に提出する考えを示した

観光立国推進と生活環境維持で分かれる意見

民泊についてはもともと、民泊業界とホテル、旅館など宿泊業界の意見が対立していた。住民や大学の研究者、行政、経済界にも賛否両論があり、政府の検討会では幅広い意見を集約して結論を出している。

京都市や新宿区のように独自に民泊のあり方について検討してきた自治体もあるが、役所内の検討だけで骨子をまとめ、パブリックコメントで住民の意見を聞くところも少なくない。廣岡教授は「厳しい姿勢を打ち出した自治体が条例の検討過程でさまざまな声を十分に聞いたのか、疑問に感じるケースもある」という。

厚労省によると、2016年度に旅館業法違反の疑いがあるとして調査、指導した民泊物件が全国で1万件を上回った。深夜の大騒ぎやごみの不法投棄などトラブルも各地で発生し、大阪市や京都市では住民の反発が高まっている。

民泊の普及は町の風景を一変させる可能性を持つ。場合によっては住民の生活環境を著しく悪化させることも考えられる。自治体は住民の声に敏感に反応するだけに、住民側に立った判断を示しがちだ。

しかし、規制を厳しくすると届け出せずに、違法状態で営業しようとする業者が増えることも予想される。これでは違法業者が水面下に潜って行政の取り締まりが追いつかない現状が続くことになる。

廣岡教授は「違法民泊の存在を黙認する状態が続くと、新法が骨抜きになりかねない」と指摘する。観光立国と住民生活の両立を図るにはどうすればいいのか、政府と自治体の議論はまだ続きそうだ。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。