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民泊解禁で日本はどうなる? シェアリングエコノミーの第一人者に聞く

投稿日 : 2017年12月27日 | 最終更新日時 : 2017年12月27日

Forbes JAPAN – 2017.12.27

https://forbesjapan.com/articles/detail/19163

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

アルン・スンドララジャン/ニューヨーク大学経営大学院情報科学・オペレーション科学・経営科学科教授

2018年6月に一般住宅に旅行者を有料で泊める「民泊」が全国で解禁される。

個人の活用できていないモノや余剰時間のサービスをユーザーと共有するシェアリングエコノミーが世界で広がっている。その際に重要な「信用」を提供しつつユーザーと提供者をつなぐのがエアービーアンドビーやウーバーなどプラットフォームだ。

「シェアリングエコノミー」の著者で、ニューヨーク大学スターン・スクールのアルン・スンドララジャン教授は民泊解禁で日本にブームが来ると予測する。シェアリングエコノミーは日本のビジネス界にどんなチャンスをもたらすのか? 同教授にシェアリングエコノミーの最新動向と日本の可能性を聞いた。


──教授は2015年に同著を上梓されました。その後のシェアリングエコノミーの最新動向について教えてください。

シェアリングエコノミーの中でも、いわゆる民泊やライドシェアの分野が最も速く成長しています。この流れは続くでしょう。今規模は小さいですが、専門職サービスの分野も今後5年で大成長が見込まれています。法律コンサルや会計、コンピュター・プログラミング、PRなどの専門職サービスのプラットフォームが続々とできました。

デジタル・プラットフォームに特化したこの本では取り上げませんでしたが、WeWorkに代表されるコ・ワーキング産業も飛躍的な成長を遂げました。この本のシェアリングエコノミーの定義には入りませんが、デザインのプラットフォームを作って、それを不動産に応用することで業界に大きな変革を起こしています。

2015年から現在までにWeWorkの企業価値は、同じ期間にウーバーの企業価値が下落したのとほぼ同じ金額、上昇しました。面白いことに米ウーバーテクノロジーズ日本法人社長はWeWorkに移籍しています。象徴的な出来事です。

──シェアリングエコノミーのプラットフォームでは、会ったことがない人がフェイスブックやユーザー評価、その他のデジタル情報を使って「信用」して取引をします。日本のような高齢化社会では、シェアリングエコノミーを広めるのは難しそうです。

どの国でも、年齢が高いほどシェアリングエコノミーを使い始めるのに時間がかかります。理由のひとつは、人々は「知っている人が使っているから、信用できる」と考えるからです。

エアービアンドビーでもフランスの長距離ライドシェアサービスのブラブラカーでも、最初の頃は「友人が使っているから」と真似しはじめた若い人によって広がりました。年齢が高ければ豪華リゾートや従来型ホテルに泊まることが多いです。しかしそれも米国では変わりました。シェアリングエコノミーで一番増えているユーザー層は55歳以上です。

つまり、普及するのに時間がかかるだけで、日本のシニア層にも最終的にはシェアリングエコノミーが広がるのは確実だと思います。

──日本でシェアリングエコノミーが普及しづらい理由は何でしょうか。

ひとつは、シェアリングエコノミー(が提供するサービスやモノ)のほとんどがもともと完璧ではないことです。(ホテルの部屋に比べて、民泊で提供されるのは)使っていない寝室など、質が一定していません。日本の消費者は完璧で均一な質を当たり前だと思っています。ヨーロッパや米国の消費者はより多様なものを受け入れています。日本は規制緩和に慎重にならざるを得ません。そして、これらのサービスを合法化するのにも長い時間がかかります。

もうひとつの理由は、他のアジアの国と比べて日本は消費者社会が発達している点です。日本ではすでに豊富な消費者経験があり、所有型の消費に慣れている。車を所有している両親世代も祖父母世代も珍しくない。中国や他の東南アジアの国々では、新しく出現した中間層が初めて消費を経験する世代です。これまでの経験がないので、これが彼らにとっての「消費」の形になります。

例えば、中間層になって初めて旅行に行く人たちがいます。初めての旅行に民泊サービスがあれば、素直に使い始められる。日本の消費者はすでに30〜40年にわたって確立されたパターンに慣れていて、行動が変わるのに時間が必要です。米国と中国を比べても、中国の方が圧倒的に早く普及しました。

消費者社会が発達し、確立された消費パターンがあること、質への高い期待と慎重な規制。これらが原因となって、シェアリングエコノミーの普及に日本は時間がかかっていますが、私は現在から2020年のオリンピック開催までに急速に成長すると予想しています。

──消費者社会が発達した経済からシェアリングエコノミーに移行する動機付けは何でしょうか。

ひとつはバラエティが広がること。そうすれば、自分が欲しいものが見つかりやすい。例えば、東京には高い質のタクシーがありますが、ボタンを押すだけでドアツードアで送迎してくれるサービスが冬にはありがたいものです。仕事ではタクシーを使い、夕飯を食べに行く時は安価なオン・デマンド・サービスを使う、という風に選べるようになります。

ホテルに泊まると年2回しか旅行に行けなかった家族も、民泊で安く泊まれれば年3回旅行に行けるようになるかもしれません。バラエティが豊富になれば、総合的により良い消費ができるようになります。

──シェアリングエコノミーは主に都市部で発展していますが、地方に可能性はありますか?

地方で発展するには時間がかかるでしょう。シェアリングエコノミーは人口密度が高いところの方でサービスが成り立ちやすい。また、都市部では他の住人とロビーを共用するなど空間をシェアすることに慣れています。地方が恩恵を得るのは雇用機会でしょう。

先ほど挙げた専門職だけでなく編集やデザイン、簡単なコンピューター・プログラミングなど、これまで地方には雇用機会が少なかった職種も、プラットフォームにアクセスできれば、地方でも働けるようになります。

また、小さな地方都市や町に集客できるチャンスが広がります。巨大ホテルは建てられなくても、民泊を利用した集客が可能になる。京都以外にも魅力的な地域はたくさんありますが、特に外国人観光客には有名ホテルがないと敷居が高い。そういう地域にも観光客を呼べるようになるでしょう。イタリアでは実際に、エアービーアンドビーによって地方に観光客が集まるようになりました。日本では楽天も規制が変わったタイミングで民泊に参入しようとしているようです。

──最初にプラットフォームを始めた会社が有利になるシェアリングエコノミーで、後発組は不利ではないでしょうか。

それはビジネスによります。ウーバーのようなビジネスでは、ドライバーと乗客を早く確保することも重要ですが、ビジネス自体はとてもローカルです。そのようなサービスでは地元であることが有利になり、チャンスがあると思います。

しかし、エアービーアンドビーと競合するサービスをつくるのは困難でしょう。提供するのは地元ですが、観光客は世界中から来るので、東京に特化した民泊は成り立ちにくいです。東京だけでなく、大阪や京都、他の都市にも同時に行きたいと思うでしょう。日本には国内旅行者の需要があるので、機会はあります。ただ、日本に特化した民泊でも、難しいのは提供者の確保です。

もし私がウーバーのようなサービスを立ち上げたいと思ったら、運転手を1万人集めればできると思います。しかし民泊のプラットフォームを作るには、東京に5000、大阪に5000、京都に3000……というように日本中にホストを確保しないといけない。そして時間がかかる。他人を自分の家に泊めるのは、誰かを車に乗せるよりもハードルが高いものです。

エアービーアンドビーは、シェアリングエコノミーのどのプラットフォームと比べても、先行者として大きな利点があります。しかし送迎、清掃、配送など多くのサービスは小規模なローカルビジネスで、地元の起業家にとってチャンスは大きいでしょう。

──日本に期待できるのはどういった点でしょうか。

来年6月の規制緩和がされれば、民泊は爆発的に成長するでしょう。日本に期待しているのは、都市部の交通サービスにおいて日本の起業家が日本に最適化したプラットフォームを構築することです。そして、日本政府がそういったプラットフォームの発展のために規制を変え、日本版のサクセス・ストーリーができればいいと思います。

来年以降、正社員もフリーランスとして副職ができるようになれば、フリーランスの労働を提供するプラットフォームに供給が増えるでしょう。すでに多くの人が実は副職をしていますが、フリーランスのプラットフォームは合法化されていないので使われていません。

 アルン・スンドララジャン◎ニューヨーク大学経営大学院(レナード・N・スターン・スクール)情報科学・オペレーション科学・経営科学科教授。シェアリングエコノミーの第一人者として、積極的に著述やメディア活動をしている。