観光客急増に「宿泊税」導入で対応、課題はどこにあるのか?
ビジネス+IT – 2017.12.20
https://www.sbbit.jp/article/cont1/34368
訪日外国人観光客の急増が続く中、宿泊税を導入する地方自治体が増えている。東京都が2002年に導入したあと、追随する動きはしばらくなかったが、大阪府が2017年に開始したのをはじめ、京都市が2018年10月をめどに導入することを決めた。北海道や沖縄県、石川県金沢市など導入を検討する自治体も多い。観光客受け入れ整備の財源を確保するのが狙いで、京都産業大経済学部の八塩裕之教授(財政学)は「観光客急増への対処という点で容認されるだろう」とみている。しかし、税収の使途や公平な徴収方法など課題も山積している。
執筆:政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)
大阪ミナミを観光する外国人。急増する訪日外国人観光客を狙い、全国の自治体で宿泊税導入の動きが相次ぐ
東京都、大阪府に続き、京都市が強気の宿泊税導入を決定
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「観光が京都の雇用創出や経済活性化に寄与しているのは事実だが、魅力の維持には多くの税金が投入されてきた。観光客にも一部を負担していただき、宿泊税を京都の魅力向上に役立てたい」。京都市の宿泊税条例が市議会で可決された11月、門川大作市長は記者会見で笑顔を見せた。
市の宿泊税条例は修学旅行の参加者を除き、民泊施設も含めたすべての宿泊客が対象。先行する自治体では東京都がホテルや旅館の宿泊客に限定し、大阪府は民泊利用客にも課税するものの、料金1万円未満を対象外としているため、すべての宿泊客を対象とするのはこれが初めてになる。
課税額は宿泊料金が1人1泊2万円未満で200円、2万円以上5万円未満で500円、5万円以上で1,000円。上限の1,000円は東京都の200円、大阪府の300円を上回り、かなり強気の設定といえる。
税収は年間45億6,000万円を見込んでいる。徴収はホテルや旅館が代行する。民泊業者に対しては仲介事業者に代行を働きかける。使途は観光地の整備や外国人向け観光案内の充実、京都の景観を代表する京町家の保全などになる方向だ。
市を訪れた観光客は2016年で5,522万人に及び、うち661万人を外国人が占める。宿泊客は1,415万人で、外国人が318万人。春や秋の観光シーズンは東山、嵐山など主な観光地が混雑し、宿泊施設不足や路線バスの遅れが生じている。
市はこれまで、観光整備に多額の資金を投入してきたが、この10年で税収が約150億円も減った。市民の血税だけで急増する観光客に対応できないとして、宿泊税の導入に踏み切った。市税制課は「既に総務省と協議している。総務大臣の同意を得られれば2018年10月ごろを目標に導入したい」としている。
北海道や沖縄県、金沢市などでも導入の動き
宿泊税は自治体が使途を定めて独自に課税できる法定外目的税の1つ。東京都が導入したあと、導入に踏み切る自治体はなかったが、訪日外国人観光客の急増が続くと、導入の意向を示す自治体が相次ぐようになった。
観光インフラの整備に充てる財源を検討している北海道観光審議会の検討部会は11月、宿泊税の導入を念頭に置いた中間まとめを公表した。審議会内では宿泊税導入を求める声が強く、2018年2月に道に対し導入を求める答申をする見通し。
中間まとめでは、一定額以上のホテル、旅館の宿泊客への課税、全宿泊客への課税、道内入域への課税を選択肢として挙げている。入域課税は空路、海路、鉄道など来道手段が多様で徴収作業が複雑になるとして批判的な意見もある。道観光局は「2月の答申を待ち、検討に入る」と述べた。
道内ではスキーリゾートの「ニセコ地域」を抱える倶知安町とニセコ町が、独自に宿泊税導入の検討を進めている。このうち、倶知安町の西江栄二町長は9月町議会で「1年後に条例案を提出し、2019年のスキーシーズンまでに施行したい」と明言した。
しかし、道と両町がそれぞれ独自に宿泊税をスタートさせれば、二重課税になりかねない。倶知安町総務課は「道と協議を進めたい」、ニセコ町商工観光課は「道の動向も見守りながら検討を進める」としている。
2015年の北陸新幹線延伸以来、観光客の増加が続く石川県金沢市では11月、有識者会議が宿泊税の導入を提言する報告書を山野之義市長に提出した。民泊を含めた全宿泊客を対象とすることを求めており、市企画調整課は「今後、具体的な検討に入る」と話した。
市の試算によると、年間税収は上限200円の東京方式で約8,800万円、上限300円の大阪方式で約9,100万円、上限1,000円の京都方式で約7億2,000万円。京都と同様に古い街並みや歴史的建築物が残り、観光客の人気を集めていることもあり、有識者会議では京都方式を参考にしようとする意見が強かった。
沖縄県は2021年度の導入を目標に観光振興を目的とする新税を検討している。2010年度から県の部長級で検討会を設け、宿泊税や入域税、レンタカー税を検討していたが、リーマン・ショック後の景気冷え込みや2014年の消費税増税を考慮し、導入を先送りしていた。
早ければ2018年度に検討部会を設け、協議に入るが、制度設計しやすい宿泊税が有力視されている。県観光政策課は「過去の検討を白紙に戻し、一から再検討したい」という。
長野県白馬村は下川正剛村長が12月村議会で「新たな財源として宿泊税などを議論したい」と述べ、宿泊税を視野に独自財源の検討に入る考えを明らかにした。村は長野県有数のスキーリゾート。観光客数は減少傾向にあるが、外国人は10年前の3倍以上に増えている。新税を観光振興事業に充て、村の活性化を図る考えだ。
旅行、観光業界からは不安の声
自治体の動きは有力観光地を抱える地域に限られるが、旅行、観光業界からは不安の声が上がっている。観光客の誘致は国レベルで激しい競争が続いており、観光客に負担を強いることで訪日客が減るのではないかと心配しているからだ。
過去には北海道奥尻町が計画した入島税、弟子屈町が導入を図った観光税は、業界の懸念をぬぐえずに実現しなかった。倶知安、ニセコ両町のペンション経営者の間では、宿泊税に慎重な声がしばしば上がっている。
使途が住民に見えにくいことも問題だ。道路改良なら観光客だけでなく、住民も受益者になる。宿泊客は消費税などを既に負担しており、一概に行政サービスのただ乗りと批判できない。
訪日外国人観光客からは多言語による観光案内表示や交通渋滞の緩和などさまざまな要望が出ている。安易な課税と批判されないようこれまで以上に使途を明確にすることが欠かせない。
東京方式で民泊施設を対象外にすれば、税の公平性を逸脱することになりかねない。しかし、民泊施設を対象とするなら、違法民泊を摘発し、2018年6月に施行される民泊新法の事業者登録をさせる必要がある。
八塩教授は「課税逃れを生じさせないため、民泊も含めてすべての宿泊施設を対象にすべきだ。民泊事業者が容易に納税できるよう簡素な制度にするとともに、違法民泊の取り締まりをより強化する必要がある」と指摘する。
宿泊税導入を考える自治体はこれらの課題にどう対応するのか。下手をすれば訪日外国人観光客の増加にただ乗りした増税と批判されかねない。不公平感が生まれず、地域全体が納得できる制度設計が求められている。